カウンセリングマインドについて学ぼう

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 はじめに

こんにちは、臨床心理士のRyuです。

今回はカウンセリングマインドについてお話しします。教育や福祉の領域、受付業務、管理職に人事職、営業など、人と関わる場面で働く方が、最近よく耳にする言葉だと思います。よく話す人は面白く魅力的ですが、話を丁寧に聴いてくれる人は、信頼を得られたり、安心感を与えられます。これは、どんな人間関係においても大切なことですよね。

知り合いから聞いた話ですが、学校でなかなか話をしてくれない生徒さんから事情を “聞き出そう” とすると、逆に意固地になり話してくれなくなることがあるそうです。そんなとき、あえて “聞き出そう” とせずに、「ふむふむ」と話を聞いていると、ぽろっと本音を語ってくれることがあるそうです。学校に限らず、家庭やパートナーとの間でも起きうる話かもしれません。「聞き上手」を目指して一緒にカウンセリングマインドを学んでいきましょう。

 カウンセリングマインドとは

カウンセリングマインドとは、アメリカの心理学者であるカール・ロジャーズ(1902~1987)の提唱した『クライアント(来談者)中心療法』を土台とした、人との関わり方における、精神や態度である、とされています。近いものに、アクティブリスニングや傾聴といった言葉がありますが、基本的にはどれも同じような意味合いで使われています。


もう少し詳しく説明します(…興味のない方は飛ばしてください)。一般的なカウンセリングは、『クライアント中心療法』と呼ばれる心理療法を土台として、様々な技法を用いて行われています。今、クライアント中心療法を “心理療法” と表現しましたが、これは何等かの特別なスキルというよりも、カウンセラーが備えておくべき基本的態度としてまとめられているものです。そのため、他の心理療法と同じレベルで考えるものではなく、全ての心理療法は、このクライアント中心療法のうえに成り立っている、と考えてもいいと思います。

クライアント中心療法とはいったい何なのでしょうか。これは、カウンセラーが「ある3条件(正確には6条件)」を満たせば、相談者がもともと持っている、「よい方向へ向かおうとする力」が促されよくなっていく、という考え方を指します。

この心理療法には2つの特徴があります。1つめは、カウンセラーが何か指示したり、導いたりはしないということです。そのため、『非指示的療法』と呼ばれることもあります。2つ目は、相談者とカウンセラーの関係性に焦点を当て、いかにしてこれを構築するかを扱う点です。専門用語で信頼関係を『ラポール』と表現しますが、ラポールを築くためには、まず相手の話をしっかり聞く必要がある、ということになります。

ざっくり言ってしまうと、カウンセリングマインドとは、これらのエッセンスを、一般的に用いることが出来るよう整理したものになります。

 クライアント中心療法 ~ロジャーズの3条件~

さて、ロジャーズの示した3条件をもう少し解説しましょう。本当の意味で理解するのはプロでも大変困難ですが(私も理解できていないと思います)、あくまで私の理解としてなるべくかみ砕いてご説明します。間違いがあるといけないので、後ほど、おすすめの本や情報サイトもお伝えしますね。

(1)自己一致 ~一致しており、統合されていること~

一言で言えば、自分の思いに素直になり、自分に嘘をつかないことです。これは、逆に不一致の場合を説明すると分かりやすいと思います。『新版 ロジャーズ クライエント中心療法(2005、佐治・飯長)』では、不一致について「有機体の現実の体験と、——個人の自己像との間に矛盾がある」とあります。

例えば、心の底では相談者の意見に「甘えてるなあ」「偏った考えだな」と納得いかない(有機体の現実の体験)のに、「相談を受ける人間は、相談者に否定的な考えをもたず、常に受容的である」(個人の自己像)と無理やり考え、本当の自分を無視して表面上は話を合わせるような状態のことです。相手の話に納得していないのに、親身に話なんて聴けるわけがありません。また相談者からしても、このようなカウンセラーの態度は「あ、この人本当は私の言うことをあんまりよく思ってないんだろうな」と気づいてしまったりします。

一致しているとは、「私は今、この方の話を親身には聞けていないみたいだな。それはきっと、私がこの方の考えに納得していないからなのだな。それはきっと私のこういう性格が影響しているからなのだろう」と自身を認識し、 “現実の体験” と “自己像” がズレていない状態です。そのうえで「それでも話を聴かせてもらおう」と思えることが大切なのだと思います。
※クライエント……相談者のことです。

(2)無条件の肯定的配慮

一言で言えば、価値観も含めて、一人の人間として相手を尊重する、ということです。同じく『新版 ロジャーズ クライエント中心療法(2005、佐治・飯長)』では、「クライエントの体験のすべての側面を、そのクライエントの一部として暖かく受容している——」とあります。

私たちは普段、 ”自分の価値観” というメガネをかけて世の中を見ています。人によってメガネの色も形も異なりますから、あるものごとを「いいこと」と判断するか「悪いこと」と判断するかは、人によって異なりますよね。相談者の話を聞くなかで、当然受け入れ難い価値観が、相手の言動を通して見えてくることもあります。これは仕方のないことです。

ですがこの条件では、 ”あくまで相手の考えや価値観は相手だけのものである” と認識することで、それらの受容を促しています。「私の価値観と近いから相手の話に納得する」のではなく、「私の価値観とは異なるが、相手にとってこれは大切な価値観なのだ」という事実だけで “無条件に” その人を肯定するということです。

(3)共感的理解

これは一言で言えば、まるでその人になったかのように、相手の思いを理解しようとすることです。同様に、「クライエントの私的な世界を、あたかも自分自身のものであるかのように感じとり、——“あたかも……のように(as if)”という性格を失わないということ——」とあります。

共感とは、自分の体験や知識をもとに相手の感情を想像し、これを共有することです。しかし例えそれが同じような体験であっても、実際には細かな部分で、体験の内容や、そのときの感情は違ってきます。例えば「恋人に振られて悲しい」という打ち明け話を聞いたとします。相手の心情を理解しようとして、私も自分が振られた体験を思い出したとします。ですが、振られた相手は違う人間ですし(性別すら違うかもしれない)、付き合った年月や、どのくらい相手を好きだったか、結婚をどのくらい意識していたか等は人により異なります。また “悲しい” という感情も、悔しいが含まれていたり、寂しいが含まれていたりと、全く同じ感情ではないでしょう。ですから、相手の気持ちを理解しようとしても、100%理解することは出来ません。共感というのは非常に難しい概念なのです。

カウンセラーはより深く共感するために、「こんな気持ちを感じていましたか?」「こんなことも考えていたように思うのですが」と、質問しながら相手の感情に近づこうとします。このように、相手そのもにはなれないけれど、可能な限り相手の思いに寄り添って理解しようとする態度を、共感的理解といいます。

Column 他人(ひと)の気持ちは分からない

話しているとき、「分かる分かる!」と言われた体験はありませんか。日常会話ならうまい共感のテクニックですが、センシティブな相談場面だと注意が必要です。というのも、私たちは、 “言葉の意味” は理解できても、 “他人の気持ち” はそう簡単には分からないからです。分かったつもりでいても、それは自分の体験に根差した色メガネ越しの気持ちかもしれません。
「分かるよ」と口にし、「あなたに何が分かるの?」「じゃあ説明してみてよ」と返されたとしましょう。「こういうことでしょ?」という返事が相手の求めていたものと違ったら、「やっぱり分かってないじゃない!」と余計に信頼を失ってしまうかもしれません(男女のやりとりのように聞こえるのは、おそらく私の体験談だからなのだと思います)。また仮に「こういうことでしょ?」と説明したことがその通りだったとしても、それはたまたま推測が当たっただけかもしれません。「分かる」という言葉を使わずとも、共感を示すことも、信頼関係を築くこともできます。大切な場面こそ、分かりたいから教えてもらうという姿勢を大切にしてみましょう。

 より効果的に話を聞くテクニック

ロジャーズの3条件は、言葉としての理解ならまだしも、実践するのは本当に難しいものです。大切なのは、この3条件がきちんと相手に伝わること、即ち「あなたの話を聴いている」という姿勢・態度が伝わることです。そのために具体的なテクニックなら、簡単に取り入れられるものもありますので、それらを見ていきましょう。『積極的傾聴』という言葉が、イメージと結びつきやすいかもしれません。

(1)姿勢は前傾で!目線はときどき合わせる

姿勢はやや前傾がいいとされています。目線は相手を向いていた方がいいのですが、じっと目を見つめるのは圧迫感があります。相手の首や足元あたりを見ながら、要所要所で目線を合わせていくと、自然な感じがします。また、真正面から向き合うと “対決” や “対峙” のイメージを抱かせてしまいますので、斜めで向かい合うくらいがいいと言われています(実際、90度法と呼ばれる向き合い方もあるくらいです( ゚Д゚))。

(2)声のトーンを合わせ、話のペースをつくる

声のトーン(強弱)は相手に合わせるといいと言われています。その際、相手が笑っていたらこちらも笑い、悲しそうならこちらも悲しい表情をすると、より共感を伝えやすくなります。

話のスピードを合わせることも大切ですが、これに関しては、ある程度こちらがコントロールすることが効果的なこともあります。私たちは、不満がたまっていたり焦っていると、話のペースが速くなります。マシンガンのように愚痴を聞かされたことのある方もいるでしょう。そのままのペースで話が進むと、相手はどんどん興奮して冷静に出来事を振り返れないでしょうし、こちらも疲れてしまいます。そんなときは、初めは相手のペースに合わせて気持ちよく話してもらい、徐々にペースを落としていきましょう。また、言葉で表現してもいいと思います。「ちょっといいですか。――とても焦っておられるようにお見受けします。もっともだと思いますが、私の頭がついていかないので、一旦話を整理させてもらえませんか」などと、これは自己一致した表現ですよね。

(3)相槌を打つべし

相槌は「あなたの話を聴いている」という明確なサインになります。積極的傾聴では、最も大切なテクニックの1つです。ただ「はい」と返事をしてもいいのですが、状況に応じた使い分けが出来ると、より「聴いていますよ」のメッセージが伝わりやすくなります。例えば同じ「はい」でも、声のトーンによってニュアンスは異なりますし、「はい」と「ええ」と「そうなんですね」を組み合わせるだけでも、こちらが話を理解し、その内容によって使い分けようとしているという聞き手のきめ細やかさが伝わりやすくなります。

(4)上級テクニック:要約して返す

相槌より高度な技術になりますが、相手が使った言葉と同じ言葉を使って要約して返すのも効果的です。「オウム返し」などとネガティブに言われることもありますが、この、“同じ言葉を使う” というのが大切です。何故なら、同じ言葉でも、それが意味する内容は、人によって少しずつ異なるからです。そのため、「こういうことでしょ?」と自分のニュアンスで要約してしまうと、「いやそうじゃなくてね」ともう一度説明が始まってしまうことがあります。相手と同じ言葉を使うことが、相手からすると最も受け取りやすいやり方なのです。

(5)自分から興味を持つ

相手の話を聞いていると、興味のない話題になることがあると思います。「興味がないから」「知らないから」と諦めてしまえば、話は終わってしまいます。そんなときは、相手の話に興味を持とうとしてみてください。例えば、SNSに興味がない人がいたとします。その人の友人がインスタグラムの話を振ってきても、「ふーん」で話が終わるかもしれません。
でもそれが友人ではなく好きな人だったらどうでしょう。どんなにインスタグラムに興味がない人でも、話を膨らませたくて、想像を巡らせませんか。どんな写真をアップするか、どんな使い方をするか、おすすめのインフルエンサーは誰なのか。インスタそのものを知らなかったとしても、まずインスタグラムとは何かについて教えてもらおうとするのではないでしょうか。私たちは誰でも、他者から興味を持ってもらえると嬉しいものですし、そのような態度が関係性には大きく影響してきます。

(6)質問を使いこなす

質問をするときは、オープンとクローズドを使い分けるのが効果的です。「趣味は?」など、自由に返答できる質問はオープン、「はい」か「いいえ」でしか答えられない質問がクローズドになります。オープンは、話す内容が絞られていないときや、広い情報を得たいとき等に有効です。クローズドは、オープンでは言葉が出ないときや、明確な回答が知りたいときに有効です。中には「オープンな質問は何を聞かれているか分からず答えづらい」という人もいますが、クローズドには、やや詰問のような印象を抱かせる場合もありますので、相手の様子をみながら使い分けてみてください。

Column 会話の間

間の使い方はとても大切で高度なテクニックです。会話中に無言の “間” が生じることを恐れる方は多いかと思います。しかし、間は大切なコミュニケーションの要素です。大事なのは、その間が “アクティブ” か “停滞している” かです。こちらの質問に、相手が考えていたり、話そうか迷っていたり、余韻を味わっている場合には、その間は大切にしましょう。そうすることで、話がより深まっていきます。一方、拒絶を意図して無言でいるように見えたり、単純に困っている場合などは、助け船を出してあげましょう。
無言の間を恐れる方に、一ついい方法をお教えします。ファシリテーターの研修で教えていただいたのですが、「困ったらハッピーバースデーを歌え」というものです。この曲は大体15秒なのですが、無言になった際、頭の中でこの曲を歌っていると、大体の場合、一曲終わる前に相手が話し始めるそうです。

 感情を抜き出すトレーニング

 さて今度は、簡単なトレーニングをご紹介します。これは、カウンセラーのトレーニングとして私が学生時代に体験したものです。アサーションと呼ばれるコミュニケーションの概念では、『女性言葉』『男性言葉』として紹介されています。

Q.こんな愚痴を聞いたとき、あなたならどう返答しますか? 2タイプの返答を用意しますので、比べてみてください。

「最近、新しい上司に代わって職場がピリピリしてるんだ。すっごい厳しい人で、大学の運動部で全国にも行った体育会系なの。私、新しい業務になれなくてミスばっかりだし……、明日仕事行くの嫌だなあ」

A1.
「ちょうど異動の時期だからね。うちも上司が異動になったんだけどさ」
「運動部なら、バリバリの体育会系なんだろうね。知ってる?体育会系の人たちってさ…」
「そっち、有給はとれる雰囲気なの?休みを入れるのも大切だよ」
「新しい業務って何やってるの?ミスが減る方法について何かアドバイスしようか」

それでは次に、別のタイプの返答を見てみましょう。

A2.
「ピリピリして落ち着かない感じだね。上司を刺激しないよう気を遣うだろうし、大変そうだなあ」
「そんな職場なら行くの嫌になっちゃうよね」
「ミスしたらどうしようって思うと、余計にミスしちゃうんだよね」

A1.とA2.の違いはなんでしょう。実はこれ、返答する側が、【情報】と【感情】のどちらに反応するかで分かれています。もう一度見てみましょう。赤の下線が情報青の下線が感情です。

「最近、新しい上司に代わって職場ピリピリしてるんだ。すっごい厳しい人で、大学の運動部で全国にも行った体育会系の人なんだって。私も新しい業務がなれなくてミスが増えちゃってるし……、明日仕事行くの嫌だなあ

これは私なりの分け方なのですが、いかがでしょう。ちなみに「……」には、言葉に出来ない感情が隠れていると思いませんか。

さらに言えば、抜き出した言葉に対して、「分析し、解決策を考える(A1.)」か、「気持ちを繰り返す(A2.)」かでも返事の仕方が異なっています。

これらを意識するだけでも、ぐっと共感的な話の聞き方、つまりカウンセリングマインドをテクニックとして使えるようになります。これはよく聞く話なのですが、奥さんが家で愚痴を漏らした際、本当はただ話を聞いてほしかっただけなのに、旦那さんが解決策ばかりを提案してくることがあるそうです。奥さんはうんざりしてしまい、以降は旦那さんに愚痴をもらさなくなり、夫婦の会話が減って関係が悪化した、というものです。まさに、カウンセリングマインドが輝く場面ですよね。

 おすすめの本など

最後に、おすすめの本を紹介して終わりにしましょう。
あまり多くを紹介しても迷うと思いますので、信頼できる著者が書いている本を2冊紹介します。

①『新版 ロジャーズ クライエント中心療法』2005. 佐治守夫・飯長喜一郎. 有斐閣
 クライアント中心療法が分かりやすく解説されています。厚みもそこまでないので読みやすいです。

②『プロカウンセラーの聞く技術』2000. 東山紘久. 創元社
 プロでも一般の方でも、目から鱗間違いなしの一冊です。コラム形式で、一つ一つのテーマが短く分かれており、とても読みやすい本です。

本ではありませんが、厚生労働省のホームページには、メンタルヘルスに関する信頼できる情報が、実はたくさんあります。『こころの耳』というポータルサイトでは、働く人のためにあらゆる情報が分かりやすく掲載されていておすすめです。

さて、今回はいかがだったでしょうか。
お伝えした来談者中心療法(カウンセリングマインド、傾聴、アクティブリスニング)を突き詰めるのは大変に難しいものですが、簡単なテクニックだけなら今日からでも取り入れられますし、実際に効果があると思います。対人間で問題が生じているとき、実際には話の内容そのものよりも、その背後にある気持ちの部分でお互いに葛藤していることが多々あります。そんなときにカウンセリングマインドが使えると、対処できる状況の幅がぐんと増えますよ。

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