みなさんこんにちは。臨床心理士のRyuです。
今回は『アサーション』についてお話しさせてください。『嫌われる勇気』で知られるようになったアドラーは、人の悩みはすべて「対人関係の悩みである」と言っています。対人関係のあるところには必ずコミュニケーションが生じますから、言い換えれば、「人の悩みの大半は、コミュニケーションの悩みである」と言っても過言ではないように思います。……多分。
病院で働いていたころ、人のよさそうな所謂 “いい人” が、よくうつになって来院するのを「何故だろう」と感じていました。聞いてみると、上司や同僚からの頼みをうまく断れなかったり、自分のSOSをうまく発信できず、業務が自分のキャパシティを越えてパタリと力尽きてしまうのだと教えてくださいました。反対に、“高圧的” 以外のやり方が分からず、周囲から浮いて困っているという方もいらっしゃいました。
アサーションは、自分も相手も大切にした自己表現の方法です。本当の意味で自分を大切にできるのは自分だけだと思いますので、ぜひこの方法を活用して、自分を大切にするとともに、周囲の人間も大切にして、お互い無理のない関係が築けるとといいですね。
アサーションとは
『アサーション』とは、欧米で始まった、理想的な人間関係の在り方について考察された概念です。日本では、平木典子先生という心理学者が、先ほどの「自分も相手も大切にした自己表現の方法」を「さわやかな自己表現」として紹介し普及しました。人事担当の方なども、聞いたことがあるかもしれません。
アサーションは「コミュニケーションを円滑に行う技法」ですが、それだけにとどまらず、「人間関係はこうあるべき」といった根本的な思考や価値観も扱います。
自己主張の3つのタイプとその背景心理
まずは、自分の普段のコミュニケーションを振り返ってみましょう。その際、アサーションでよく用いる分類をご紹介します。行動療法の創始者の1人であるウォルピ(1915-97)は、自己主張のタイプを3つに分けて説明しています。
①アグレッシブ/攻撃的(aggressive)
:自分のことだけ考えて、他者を踏みにじるやり方
②ノンアサーティブ/非主張的(non-assertive)
:自分よりも他者を常に優先し、自分のことを後回しにするやり方
③アサーティブ(assertive)
:自分のことをまず考えるが、他者をも配慮するやり方
■事例で説明!
それでは、この3つの自己主張パターンを、事例を交えて紹介していきましょう。
みなさんが休日に静かな喫茶店で読書をしていると、隣の席の客が、キーボードを必要以上に強く叩いており、その音が気になって、なかなか読書を楽しめなかったとします。(……つい先日の実体験です…笑)。
①【アグレッシブ】であれば、「さっきからうるさいんだよ!」と怒鳴りつけたり、自分もキーボードを強く打って対抗したりします。結果、隣の客は嫌な気分で退店しますが、自分も「ちょっとやりすぎたな…」と後味悪く残りの時間を過ごすことになります。喧嘩に発展することもあるかもしれません。
②【ノンアサーティブ】であれば何も言えず、かと言って「席を移動するのも露骨だし、相手の気分を害するだろうか…」と考えすぎて、我慢して過ごします。結局集中できずに、何も出来なかった自分へのみじめさが残ります。
さて、③【アサーティブ】だとどうなるでしょう。考えてみてください。
隣の客に、あなたが音が気になっていることを丁寧に伝え、出来ればやめて欲しいとお願いします。相手は自分の行動に気がつき軽く頭を下げます。あなたは、提案を受け入れてもらえたことに笑顔でお礼を言い、お互いに気持ちよく過ごすことが出来ます。さらに、自分の要求を伝えられたことが自信になり、あなたは店内で堂々と過ごせます。
この③こそが、“さわやかな自己表現” なのです。
ちょっと出来過ぎた例だと私も思いますが、身の回りをよく観察すると、意外とこういうことを上手に出来る方っているんですよね。皆さんも、そんな人の顔が思い浮かびませんか。
Column『イラショナルビリーフ』
①や②のパターンをもう少し掘り下げてみましょう。『イラショナルビリーフ』という言葉があるのですが、これは「ものごとはこうあるべき」という非合理な信念を指します。先ほどの例で言うと、
①は「喫茶店では誰もが静かに過ごさなければならない」
②は「自分の意見を押しつけるのは我儘である」
①と②両者に共通しているのは、「他人の気持ちはお互いに尊重しなければならない」といった思い込みになりそうです。この信念は、果たして有効に機能しているのでしょうか。
大抵の場合、このような考えは成長のなかで身についていきます。例えば、人は/世の中は「~あるべき」「~じゃないとダメ」という要求水準(相手に求める程度)の高い養育者のもとで育ちますと、子どもはその価値観を受け継ぎ、他者への要求を高く持ってしまう傾向があります。一方、欠点ばかりを指摘され、“あるがまま” を受容してもらった経験の少ない子どもですと、自分を大切にできず、他者を優先させすぎたりします。
ここで大切なのは、養育者を責めろということでは決してありません。その人が “大切” と思っている信念が、実はその人自身を苦しめていることもあると気付いてほしい、ということです。このようにして自己理解が深まれば、次のステップとして、考え方や行動をより合理的なやり方に変えていく土台が整ってきます。
交流分析で有名なE.バーンという人がいるのですが、彼は「過去と他人は変えられない」と言っています。逆を言えば、「未来と自分は変えられる」……かもしれません。
アサーション権 ~アサーションの歴史~
「そうは言うものの、やっぱり自分の思いを素直に主張するのには抵抗がある」という方も多いと思います。少し別の視点から、アサーションを考えてみましょう。
(1)アサーションの歴史
そもそもアサーションという概念は、1960~70年代のキング牧師の活動に代表される「人種差別撤廃」「人権拡張」、また1975年の国際婦人年を契機としたウーマン・リブ運動にも影響を受け、人権について改めて関心が集まったことが、発展の背景にありました。それまでマイノリティとして弾圧されてきた方々が、改めて平和的に、自分の権利や思想を主張する必要に迫られ、その方法や理念として発展してきたという側面もあるのです。
(2)アサーション権
人権とのつながりから、『アサーション権』という概念も紹介しておきます。平木先生は、代表的なアサーション権を以下の5つとして本で紹介しています。
Ⅰ.私たちは、誰からも尊重され、大切にしてもらう権利がある。
Ⅱ.私たちは誰もが、他人の期待に応えるかどうかなど、自分の行動を決め、それを表現し、その結果について責任をもつ権利がある。
Ⅲ.私たちは誰でも過ちをし、それに責任をもつ権利がある。
Ⅳ.私たちには、支払いに見合ったものを得る権利がある。
Ⅴ.私たちには、自己主張をしない権利もある。
これらは、アサーションの視点から人権を捉え直したものだそうです。様々な専門家が説明しており、全部で100以上もあると言われています。
パッと読んだだけだと、なかなか頭に入りませんよね。今回はⅡについてもう少し説明します。例えば、あなたが会社で面倒な仕事を頼まれたとします。そしてそれを断れず、嫌々引き受けたとします。「本当はこんなのやりたくないのに」「なんで私がやらないといけないんだろう」、そう思いながら作業してもなかなか身が入りません。
ですが冷静に考えると、あなたはこの仕事を断ることが出来たのです。「いや、上司からの仕事なので断れませんよ」と思う人もいるかもしれませんが、仮にそれで仕事をクビになったとしても、「断る」という行動をとること自体は可能だったのです。
そう考えると、例え嫌々だとしても、引き受けたのは自分の意志です。「仕方なくやっている」と考えても、「自分の意志で引き受けた」と考えても、事態が変わるわけではありません。しかし、後者の方が、自分の責任としてその業務を引き受けることが出来るので、より主体的に取り組めると思いませんか。
先ほどの喫茶店の例で言えば、隣の客のタイピングが気になったとき、それをやめてもらえないか頼むことも出来ますが、口論などに発展しそうなときは、無理して言う必要はありません。ただその際、「言えなかった」と思うよりも、「自分の意志で、言わないと決めた」と思った方が、私たちはその状況を受け入れやすくなり、ストレスを低減させることが出来るそうです。
どうでしょう。こういった考えが基本的人権で守られているものだと分かると、自己主張をすることに、少しだけ自信が感じられてきませんか。あなたは、アサーション権を行使してもよいですし、しなくてもよいのです。この世に生まれてきたというだけで、これらの権利を、誰しもが間違いなく持っているのです。
具体的なアサーション
私たちは、コミュニケーションのスキルは自然と身につくものと考えがちですが、実は小さい頃からの積み重ねの上に成り立つ非常に高度なものなのです。そうでなければ、“雑談” や “話の聞き方” の本がここまで世に溢れるはずがありません。裏を返せば、スキルを学べば、私たちのコミュニケーションはある程度洗練されていくということでもあります。アサーションの代表的な技法である『DESC法』について見ていきましょう。
(1)DESC法
言いたいことを4つの領域に分けて整理し、セリフを作るやり方です。4つの領域の頭文字をとってDESCと呼ばれています。
D = describe(描写する)
客観的に、あなたが対応しようとしている状況を描写します。「お互いの置かれている状況を当たり前のものとして共有している」と私たちは思い込みがちですが、実際にはそうでないことが多くあります。そのため、必要な場面でDを省略してしまうと、話に食い違いが生じたり、そもそも話が通じなかったりします。
E = express, explain, empathize(表現する、説明する、共感する)
状況や相手の行動に対する自分の気持ちを表現したり、相手の気持ちに共感します。次に紹介する『提案』を論理的に理解してもらうために重要になります。これを省くと、相手は何故その提案なのかが分からないため、受け入れづらくなったり、戸惑ったりしてしまいます。
S = specify(提案をする)※単語の意味は『特定する』です。
相手に望む行動や妥協案を提案します。提案は、“実現可能なもの”を、“具体的”に表現しましょう。
C = choose(選択肢を用意する)
もし提案が断られたときの別の選択肢を示します。この用意がなければ、断られたらそこで話が終わってしまいます。100点の要求を通せなかったとしても、せめて50点の提案を通すことが出来れば、0点よりはずっといいはずです。
小さいお子さんに対しては、DESCの代わりに『みかんていいな』というキーワードを用いることもあります。
・み…見たこと
・かん…感じたこと
・てい…提案
・いな…否と言われたときの返事
■事例で紹介!
具体例を挙げてみましょう。親の健康面に問題が生じてその対処に追われ、睡眠不足な日々が続いていたとします。あなたには相当な疲れがたまっていたとしますね。そんなとき、仕事で迷惑をかけていた上司から飲みに誘われました。これまでなら、上司の、ましてや普段迷惑ばかりかけている相手の誘いを断るなど失礼だと思い、無理して誘いに応じてしまっていたとします。しかし今のあなたは、一秒でも早く帰宅し、睡眠をとりたいと思っています。DESCに沿って考えを整理してみましょう。
D = describe(描写する)
→ 飲みに誘われた
E = express, explain, empathize(表現する、説明する、共感する)
→ 親の健康面に問題が生じている/十分な睡眠がとれていない/疲労がたまっている/上司に仕事で迷惑をかけている/断ることに申し訳なさを感じている/誘ってもらえたことはありがたい/今日は早く帰りたい/上司も自分のことを心配しているのかもしれない
S = specify(提案をする)
→ 今日ではなく、また落ち着いたころにして欲しい
C = choose(選択肢を用意する)
→ 1時間だけにしたい/飲みではなくお茶がいい/ランチがいい
まとめると、こんなセリフになるでしょうか。
「〇〇さん、誘ってくださってありがとうございます。実は最近、親が体調を崩してしまい、その対応で睡眠がとれていないのです。何もなければ、ぜひご一緒させていただきたいのですが、今日は早めに帰宅して休みたいと考えております。飲みは、また後日ゆっくり時間がとれる時に、ぜひ私からお誘いさせていただけませんか」
という具合です。もしこれに難色を示されたら、
「それでしたら、親が待っているので、1時間でしたら都合がつきそうです。そこで話を聞いていただけるとありがたいのですが、いかがでしょう」
とでもなりますでしょうか。
あなたが過去に体験した場面を思い出して、これを当てはめてみてください。場合によっては、順番を入れ替えて結論から提示したり、Dは省いていいかもしれませんね。もちろん、このセリフを一息で言い切る必要もありません。
交渉をするときのコツは、諦めないことです。その要求があなたにとって大切なものであるのなら、簡単には引き下がらず、粘り強く自分の意志を伝えてみましょう。
(2)DESC法が有効な場面
さて、DESC法について、みなさんはどんな感想を持ちましたか。「なるほど」と思った方もいれば、「そんなの当たり前」と思った方もいると思います。これまでにたくさんの患者さんを見てきましたが、大手企業に所属するような優秀な方や、人とのコミュニケーションが尊重される人事部に所属するような方であっても、上手に出来ている方は意外と多くはありませんでした。
「このくらい言わなくても理解しろよ」とDを省いて話しがちな方は、前提条件が一致しないまま話を進めてしまうため、よく話に食い違いが起こります。
「説明する必要性が感じられない」とEを省略しがちな方の会話は、提案が急すぎてなかなか受け取りづらかったりします。
「状況を話せば、何を言いたいか分かってくれるはず…」とSが抜けがちな方は、断ったり、要求したりするときの表現が婉曲になりがちです。
そしてCの用意がなく、断られたらそこで引き下がってしまう方は、自分の要求が却下される体験を通して無力感に苛まれていたりします。
DESC法が有効な場面は多々ありますが、基本的には「断る」「依頼する」「許可をもらう」など、何等かの目的をもった会話で効果を発揮するそうです。雑談のテクニックとは少し違うようですね。このような “目的のある会話” はビジネスシーンで多くなされます。家庭では、「家族だからこそ事細かに説明しなくても察して欲しい」という相互の甘えから、日々のすれ違いやいざこざが起きていることがよくあります。そんなときに有効かと思います。まずは普段の自分のコミュニケーションを振り返り、必要と思うのであれば、考え方の一つの型として持っておけるといいでしょう。
Column『自分の本音が分からない』
DESC法について講義をしていると、たまに「そもそも自分が何を要求したいかが分からないので、Sが作れません」と口にする方がいらっしゃいます。これまでの人生で相手ばかりを優先してきた結果、自分の望みが自分でも分からなくなっているのです。時間をかけて本音と向き合えばいいと思いますが、せっかくのブログなので、こういった方へのヒントを2つ紹介します。
①1つ目は、感情を頼りにするやり方です。「何を望んでいるか分からない」と口にする方でも、そのときの感情を聞くと、「怒り」や「うんざり」などと表現できる方もいます。「怒り」であれば、要求としては謝って欲しいのかもしれませんし、今日はもう口をききたくない、のかもしれません。「うんざり」であれば、今日はもう帰りたい、のかもしれません。
②2つめのヒントは、素直に「分からない」を口にしてみることです。先ほどの例で言えば、「すみません。実はここ最近疲れがたまっていて早く休みたいという気持ちがあります。一方で、誘ってもらって嬉しいですし、断ってがっかりさせてしまうのも気が引けます。正直に言うと、自分でもどうしていいか分からないのです」という具合です。このようにして会話を続けるなかで、または後になってふと、自分がどうしたいのかに気付けることもあります。この話に共感した方はぜひ、「本当はどうしたいのか」に耳を傾けることを習慣にして、自分の思いを大切にしてあげてください。
(3)ノンバーバルコミュニケーション
アサーションで扱うのは、言葉だけではありません。「目は口程に物をいう」という言葉がありますが、目に見えるものや音にも、さまざまな情報が含まれています。ここで、ある理論を紹介します。『メラビアンの法則』と呼ばれるもので、心理学者のメラビアン・A(1939-)が提唱したものです。これによると、感情や態度について、『言語情報』『聴覚情報』『視覚情報』がそれぞれ矛盾していると、受け手は情報を正確に受け取れなくなるそうです。自分のコミュニケーションについて、言葉と音声、表情などのさまざまな情報が、伝えたい意図と一致しているかを客観的に評価してみましょう。
試しに、スマホで内部カメラを起動してみてください。そして、自分の顔を見ながら喜怒哀楽の表情を浮かべてみてください。本当に、思っていた通りの表情が出来ていましたか? 断りながらも半笑いを浮かべていたり、喜びながらも無表情だったりすると、あなたの伝えたい意図が歪曲して伝わってしまい、それが対人関係上の問題に発展しているかもしれません。気になる方は、家族や友人などに頼んで、自分の表現のクセについて教えてもらうといいでしょう。
5.トレーニング方法
さて、そろそろ理論も飽きてきた頃でしょうか。実際のトレーニング方法について見ていきましょう。ここでは3つのやり方をご紹介します。
(1)専門家の研修を受けてみる
アサーションを専門に教えるサービスは、一般的なものからビジネス向けのものまで様々行われています。特に『日本・精神技術研究所』の研修は、平木典子先生が開始に携わっていますから、歴史と信頼性があります。それ以外にもネットで探せばいろいろと見つかると思いますから、ぜひニーズと合致するものを探してみてください。
アサーションは実際のコミュニケーションで活かされるものですから、本を読んで知識を学ぶだけでは不十分なところがあります。その点研修であれば、まず第三者の視点も交えて自己理解を深めることが出来ます。自己理解が出発点になり、その人の場合は何を改善したらいいかが分かってきます。次に、他の参加者とディスカッションすることで、価値観の多様性に触れたり、他の人のやり方を学ぶことができます。最後に、演習を体験して、知識をより実践的に身に着けることが出来ます。これらは独学では難しい部分ですので、そういう意味でもやはり研修はおすすめです。
(2)自分たちでやってみる
企業にお勤めの方は、例えば新人研修などで実施したいと思われるかもしれません。もしかしたら、教員の方が、学校のHRなどに取り入れたいと思うかもしれません。そんなときも、ファシリテーターを担当される方は、まずご自身で研修を受けることをお勧めします。そのうえで、私が病院でやっていた方法を2つご紹介します。
例1『座学形式で実施する』
①概念を知る
アサーションの紹介と、その歴史やアサーション権、3つの自己表現タイプなどについて説明する。
②自己理解を深める
チェックシートを用いたり、参加者にこれまでの対人関係で困った場面を振り返ってもらい、自身のコミュニケーションパターンへの理解を深めてもらう。
③練習をする
4~5名ほどのグループに分かれ、特定の場面をお題として提示し、その場面に適したDESCを作ってもらう。出来ればそれを共有し合い、やり方のバリエーションを増やす。
例2『SST(ソーシャルスキルトレーニング)の形で実施する
アサーションへの理解が前提となりますが、こちらの方がより実践的な内容を学べます。
①まずお題となる対人関係の場面を提示する。
例:体調が悪いので会社を早退したい。
②グループに分かれて実際に演じてみる。
『本人役』『相手役』『観察者』の配役に分かれ、演じたら感想をお互いにフィードバックする。
③これを2週行う
1週目は、「普段の自分のまま」を演じてもらい、2週目は、1週目でもらったフィードバックをもとに、よりアサーティブな方法を考えて試してもらう。
(3)日常生活のなかで練習してみる
日常生活で練習する分には、手軽に出来ますしお金もかかりません。店員さんとのコミュニケーションや、上司に相談するとき等は、おすすめの練習場面です。相手が友人や家族であれば、伝えたい意図がきちんと伝わっていたか、それは相手にとって受け取りやすい表現になっていたかなど、後で感想を聞いてもいいかもしれませんね。
練習するときは、いきなり上手なアサーションを目指しても難しいと思いますので、これまで自分のコミュニケーションを振り返り、まずは1つか2つ課題を見つけて、そこから取り組んでいくのがいいように思います。
トレーニングを行ううえで気を付けて欲しいのが、「アサーションはビジネスマナーではない」ということです。トレーニングを続けていくと、知らず知らずのうちに営業マンのようなやりとりを理想とする雰囲気が生じ、この2つを混同してしまうことがあります。ビジネスマナーを洗練させることが有効な人と、アサーションの視点を取り入れることが必要な人は少しタイプが違いますね。個人的には、まず最低限のビジネスマナーを学び、そのうえでアサーションを組み込んでいくのがいいように思います。アサーションが目指しているのは、まず自分の思いを大切にすることです。普段なら飲み込んでしまうような思いでも、それが大切なものであれば、勇気をもって口にし、相手に伝えてみること。その上で、相手にも伝わりやすい表現を用いるならどんなセリフになるかを考えることです。
余談ですが、アサーションという視点で見た時、私が理想としている存在がいます。それは、某テーマパークで会えるウミガメのキャラクターです。彼は、自分の言いたいことは基本的に何でも口にしますが、分かりやすさを心がけ、相手を不快にさせるような表現は使いません。こんな大人になれたらいいな、と密かに憧れています。
6.体験した人の感想
ここまででアサーションの基礎知識はお伝えできたかと思いますので、次は実際にアサーションを体験した方々からお聞きした感想を、いくつかご紹介します。
※人物が特定できないよう、情報を再構成して、典型例として掲載しています。
20代女性 営業
以前の私は、どうしても「人に何かを頼む」とか、「断る」とか、自分の都合を優先することに抵抗があって、笑ってごまかしたりしていました。だから、飲み会の誘いとか雑用とか、本当はやりたくない仕事をつい引き受けてしまって、そういう毎日に疲れていたんでしょうね。でも冷静になって考えると、そういう態度は自分も苦しいし、例えばキャパオーバーでドクターストップにでもなれば、結果として相手も迷惑なんですよね。自分を大事にするって、当たり前のことですけど、とても大事なことなんだなって考えさせられました。まだうまく出来るとは思わないけですど、本当に必要なことは粘り強く交渉する、というのは実践したいと思いました。
40代男性 エンジニア
これまでは、自分の判断に、実は自分自身が納得できていなかったんだと気づかされました。例えば、相手に頼まれたことを引き受ける際も、心のどこかでは「なぜそれを私がやらなければいけないのか」という不満があった。でも、そういう気持ちを無理やり押し込めていたから、それが相手や業務そのものへの不満となって積み重なり、仕事が嫌になってしまっていたんだと思います。ですが、どんな状況であったとしても、最終的に「引き受ける」と決めるのは自分なんですよね。そう思ったら、アサーション権の意味がすっと腹に落ちた気がしました。「自分が何を選択して発言するか」それ事態は大きく変わらないと思いますが、今後は自分の責任として、ちゃんと納得した上で、意志を表現していきたいと思います。
50代男性 人事部
自分では、アサーティブなやりとりが出来ていると思っていました。ですが、他の方からのフィードバックを貰い、必ずしも自分の認識通りではかったことに気付きました。若い女性から「こわい」という意見をもらい、自分では「ちょうどいい」と思う言い方でも、だいぶ人によっては攻撃的に聞こえることもあると分かりました。また、「社交辞令っぽい感じがする」というフィードバックを貰って、自分で思うよりも、本音って顔に出てしまうんだなと気づきました。無理に愛想よくするのは本末転倒かもしれませんが、「私はこのように思うのだけれど、〇〇さんはどう思う?」と相手の意見を聞こうとしたり、「時間をとってくれてありがとう」と気遣いの一言を添えるなどして、相手への配慮を伝えていく姿勢はあってもいいように思いました。
いかがだったでしょうか。今回も情報量が多かったかと思いますが、何か1つでも、「なるほど」と納得できるものが見つかったら嬉しいです。
最後にもう一つ大事なことをお伝えします。アサーションは、「自分も相手も大切にした自己表現の方法」です。ここまでにご紹介したのはあくまでもその ”方法の一つ” に過ぎません。実際この方法を知らずとも、「アサーティブな方だな」と感じる方は世の中にたくさんいると思います。ですから、方法にこだわり過ぎず、自分の思いを大切にしようとする姿勢と、相手を思いやる姿勢を、再確認していただければ、それが皆さんにとってのアサーションになるように思います。そのためのヒントの1つと思って、この記事を参考にしてもらえると幸いです。
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